原付

Uさんが高校二年生だったある日のこと。
放課後に友人数人でK君の家に遊びに寄った。
二階にあるK君の部屋でしばらくの間駄弁っていたが、そのうちにK君が窓の外を窺い始めた。
「何か見えるのか?」
友人の一人が聞くと、K君は「まあ、ちょっとな……」と言葉を濁しながら、窓の外を眺め続ける。
何となくUさんたちも釣られて窓の外に目をやった。
K君の家は近くの川から歩いて数分の位置にあり、二階の窓からは堤防が見通せる。
堤防の上は舗装された遊歩道になっているのだが、特に通行人も見当たらない。
夕焼けで赤く染まった堤防を眺めていたK君が「そろそろ来るかもしれんぞ……」と呟いた。
何が来るんだよ、とUさんが聞こうとしたとき、堤防の上を一台の原付がゆっくり走ってきた。
「ん……?」
「おかしくねえ、あれ?」
友人たちが口々に呟く。
走ってきた原付には、誰も乗っていなかった。
まるで透明人間でも乗っているかのように、無人の原付が滑るように進んでゆく。
「時々あそこをああやって通るんだよ、あれ。晴れてて通行人がいない時じゃないと出ないみたいだけど」
K君が面白がるような口調で言った。
原付は、そのまま同じ速度で視界の外へと消えていった。