ドアミラー

Mさんが中学生の時の話。
当時、Mさんの母の勤務先が中学校と同じ方向だったので、登校時に一緒に車に乗せていってもらうことがよくあった。
ある日のことである。
やはり母の車で送ってもらうことになったMさんだったが、たまたまその日は高校生の姉も同乗した。
高校の方が遠回りになるので、先にそちらに寄ってから中学校に向かうことになる。
助手席にMさん、右後部座席に姉が座り、左後部座席にはその日に出すゴミ袋が積まれた。
家を出てしばらく走ったころ、途中にある陸橋の下を通った時のこと。
何気なく助手席側のドアミラーに視線をやったMさんだったが、何となく違和感があった。
ドアミラー越しに、後部座席に乗っている姉の姿が見える。
と思ったのだが、ドアミラーに映って見えるのはMさんの真後ろの席である。
姉は右側の後部座席なので、そこに見えるのが姉のはずがない。
あれ?と思って後ろを覗き込んでみるが、ゴミ袋があるだけ。
見間違えか?と思いながらもう一度ドアミラーを見てみると、やはり後部座席に女の姿が見える。
よく見てみれば姉とは似ても似つかない。
髪を肩くらいの長さに伸ばした、若い女だった。
(え、何これ?誰?)
思わずドアミラー越しにじっと見つめると、その女が顔をくっと向けてきた。
目が合った。
(うわっ!)
慌てて目を逸らしたが、運転中の母に言うわけにもいかず、視線を前に固定したまま縮こまっていた。
そうするうち、車は姉の通う高校へと到着した。
恐る恐るもう一度ドアミラーを覗いてみると、もう女の姿は見えない。
ほっと一息ついて、また発進した車のシートにもたれていると、しばらく走ったところで急にボンネットから白煙が立ち昇った。
路肩に駐車し、ボンネットを開けてみると焦げ臭い。後で点検したところ、なぜか交換したばかりのファンベルトが焦げ付いていたらしい。


今日は遅刻かな、と溜息混じりに辺りを見回したところ、そこはまさしく先程女の姿に気付いた地点、陸橋のすぐ下だったという。