髪切り

Oさんという女性があるときアルバムを眺めていて、ひとつ気になったことがあった。
幼い頃の自分が、一時期丸刈り頭になっているのだ。その頃の写真にはどのOさんも青々と刈り込んだ頭で写っている。
日付を確認すると三歳から四歳までの二年間ほど、ずっとその状態だ。それ以前の写真では髪は伸ばしてあるし、それ以後の写真でも次第に伸びてきているのがわかる。なぜこの二年間だけ、ずっと丸刈りだったのか。
物心がつく以前のことで、自分自身にはっきりした記憶はない。母に丸刈りの理由を尋ねると、表情をいくらか曇らせながら語ってくれた。


Oさんが三歳になって間もないころ、いつの間にかOさんの髪が左半分だけ丸刈りになっていた。それどうしたの、と本人に尋ねても要領を得ない。
左肩には髪がびっしり着いていて、室内のOさんが歩き回ったあたりにも至るところに髪が落ちている。
母はOさんが自分でやったのかと思い、Oさんを叱った。それからは家中の刃物をOさんの手に届かないところに置くよう徹底した。
半分だけ丸刈りなのはみっともないので、右半分も同じように丸刈りにした。
そうしてOさんの耳が隠れるくらいまで髪が伸びてきたころ、また母は仰天した。再びOさんの左半分が丸刈りになったからだ。
刃物はOさんの手に届かないから自分でやったはずはない。そもそも前回も少しおかしいと思ったのだが、自分でやったにしては随分きれいに半分だけツルツルになっている。剃刀をあてたように綺麗に髪がなくなっているのだ。
それにごく僅かな時間でのことだ。家の中で母がOさんから目を離したほんの数分の間にその状態になっていた。他の人間がOさんに近づくことはできなかったし、仮に誰かがいたとしてもその短い時間でやれることではない。まるで髪がひとりでに落ちたようだ。
本人は特に気にする様子もなく平気な顔をしているが、どう考えても普通の事態ではないと母は考えた。
Oさんを病院に連れて行ったものの、髪は根本から抜けたわけではなく切れているだけだという。頭皮にも特に異常は見つからなかった。
病院では解決しなかったので、母はOさんを神社に連れて行って一緒にお参りした上で、お札とお守りをもらってきた。
お守りをOさんに持たせて、お札は家に貼った。Oさんはそれ以来髪がいくらか伸びるたびに、母や父の手ですぐ丸刈りにされた。
五歳になる頃に少し様子を見てみようということになり、しばらく髪を伸ばしてみたものの、今度は以前のように半分丸刈りになることはなかったので、両親はほっとしたのだという。