焚き火

真夏のことだったという。
Eさんが家の裏にある畑の隅で、お父さんと一緒にゴミを燃やしていた。
家の中で出た可燃ゴミだけでなく、庭の木の枝や刈って放置していた草などを一箇所に集めて焼いた。
周囲は森や畑で隣家が離れているため、Eさんの家ではゴミが溜まるとゴミ回収の日に出すのではなく、家の敷地内で燃やしてしまうことも多い。
いつもはもっぱらお父さんが一人でやるのだが、この時は少し前に草刈りと枝打ちをしたのでゴミが多く、Eさんも手伝っていた。
刈った草を燃やしているとパチパチ音がして白い煙が登る。その時ふと携帯電話の着信音が鳴った。
ポケットから取り出したものの、鳴っているのはEさんの携帯ではない。お父さんも同様だ。
じゃあこの音はどこから、と耳を澄ますとどうやら焚き火の中から聞こえている。
間違えて誰かの携帯を一緒に焼いてしまっているのだろうか。これはまずい、と思ったがよく燃えているので今更消しても手遅れかもしれない。消火のために水をかけたりしたらその水で携帯が壊れそうでもある。
どうせ壊れるにしても早く取り出しておいたほうがまだマシだろうか。そう考えて二人はバケツの水をかけた。
すぐに炎はおさまったので、燃えさしを棒でかきわけた。着信音はまだ続いている。
しかし携帯は見当たらない。
音は聞こえているのにおかしいな、と探った結果、音の出どころらしきものに突き当たった。
握りこぶしくらいの石ころだ。音は確かにそこから出ている。
棒で転がしたところで音が止んだ。まだ熱いから拾い上げることはできないが、棒でつついても転がしても単なる石にしか見えない。
こりゃあ化かされたかな、とお父さんが呟いた。水をかけてしまったのでその日はもう焚き火は続けられなかった。
翌日Eさんは改めてあの石を見に行ったが、なぜか今度は見当たらなかったという。