電灯外し

ある朝Eさんがマンションの自室で目を覚まし、こたつの上に置いた眼鏡を取ろうとして異変に気がついた。
こたつの上に眼鏡だけでなく、蛍光灯が載っている。ホコリを被った丸形の蛍光灯だ。
なぜこんなものがここに、と天井を見上げると蛍光灯がついていない。どうやら天井に付けてあった蛍光灯を外してこたつの上に置いたようだ。
しかしそんなことをした覚えがない。寝る前は確かに蛍光灯は天井に付いていたし、たった今目を覚ましたばかりで自分ではそんなことはしていない。
一人暮らしだから家族がやった可能性はない。戸締まりはしっかりしているから侵入者がやったとも考えられない。百歩譲って侵入者の仕業にしても他に変わったこともないので、訳がわからない。
夜の間に自分で寝ぼけて外して、すっかり忘れているのだろうか。
腑に落ちないながらも、その朝はとりあえず蛍光灯を元通り付け直してから出勤した。
すると職場で同僚が脚立を持ってくるところに出くわした。
どうしたと尋ねると、事務所の天井の蛍光灯が全て外されていたのだという。
朝一番に出勤した社員が鍵を開けて入ったときにはもうその状態で、誰の仕業かはまだわからないとのことだった。
うちと同じだ、と思ったEさんだが、勘繰られるのも嫌なので自宅であったことについては触れずに、蛍光灯を元に戻すのを手伝った。


その夜、Eさんは帰宅してから買ってきた弁当と惣菜で夕食を済ませ、台所で食器を片付けた。
そしてリビングに戻ったところでまた様子がおかしい。部屋の明かりが消えている。
台所に行ったときには明かりは点けたままのはずだったのに、今は暗くなっている。
スイッチに手を伸ばしたがいくら押しても明るくならない。
点けたままのテレビの明かりに照らされて、こたつの上の丸いものが見える。蛍光灯だ。
また外れている。背中に嫌な汗が吹き出した。

いつの間に。誰が。
部屋の中にはEさん以外誰もいない。しかし自分のはずがない。
本当に他に誰もいないのだろうか。
隠れるような場所もないが、どうにも気味が悪い。すぐにEさんは部屋を出て、駅前の漫画喫茶に入り、翌朝まで過ごした。
警察に通報することも考えたが、蛍光灯が外されただけで大した害がない。侵入者がいる証拠もない。
明るくなってからようやく帰宅する気になったが、戻ってみると部屋には昨夜から特に変わったところはなかった。
それから数日は部屋の蛍光灯を外したまま過ごしたという。