夜中の宴会

家族で京都に旅行した人の話。
初日の夜、ホテルで寝ているとなんだか騒がしくて目が覚めた。
ベッドの上で身体を起こすと奥さんと娘さんもほぼ同時に起き上がった。三人とも一斉に目を覚ましたらしい。
騒がしさの元は何だ。見回してみると異変に気がついた。
トイレの方だけ間接照明を点けた薄暗い部屋の中で、なぜか一隅だけが皓々と明るい。テレビの斜め下、床に近い辺りが四角形に光っていて、その中に何人もの浴衣姿の男たちが座って楽しそうに宴会をしているのが見えた。
男たちが何事か話してはどっと笑う。何がそんなにおかしいのか知らないが、どうにも騒々しい。
人が寝ている部屋でなんてことしてるんだ、とベッドから降りて文句を言ってやろうとすると、引き戸を閉めるように宴会の様子が見えなくなって明かりが消えた。
宴会が見えていたところは部屋に備え付けの冷蔵庫だった。試しに開けてみたが中は飲み物が並んでいるただの冷蔵庫で、宴会の光景はどこにもない。
そもそも冷蔵庫は引き戸ではない。今しがた引き戸を閉めるように宴会が見えなくなったのは奇妙だった。
冷蔵庫の中におさまるような小さい宴会というのもおかしい。あの浴衣の男たちはなんだったのか。
奥さんと娘さんは不安がったものの、とりあえず静かになったのでもう一度寝ようと二人を促してベッドに入った。
翌朝まではそれ以上変わったことはなかったが、もう一晩同じホテルに泊まることになっている。フロントに部屋を変えてくれと要求すると、何も聞かずにすんなりその通りにしてくれた。
それがかえって不気味だったという。