タイムカプセル

Mさんが友人からこんな話を聞かされた。
友人は成人式で里帰りしたとき、かつて通った小学校を訪れた。六年生のときにクラス一同で埋めたタイムカプセルを掘り出すために、当時の同級生たちが集まったのだ。
目印が残っていたおかげでタイムカプセルはすぐに掘り当てられた。中も水浸しになっているようなこともなく、八年前に入れたままの品々が取り出せたので、歓声が上がった。
友人も自分が入れたものを見つけた。当時使っていた落書きノートだ。
昔から絵を描くのが好きだった。あの頃は休み時間のたびにこのノートに絵や漫画を描いていた。ゲームやアニメのキャラクター、自分で考えたロボット、その時描きたいものを好きなだけ描いた。その後進学するうちに、勉強や部活動で忙しくなってだんだん絵は描かなくなってしまったが。

このノートをどこへやったか忘れていたけど、そういえばタイムカプセルに入れたんだったか。
懐かしく思いながらノートをめくり、最後のページに辿り着いた。
そこには絵は描かれておらず、下の方に一行だけ鉛筆で文字が書かれている。

「かな子はやめとけ」

なんだこれは。こんなこと書いたかな。覚えがない。
しかしこの雑な筆跡は小学生の頃の自分の字に間違いない。他のページの字とも酷似している。
かな子というのは誰のことか。その名で思い当たるのは一人しかいない。二十歳現在に付き合っている彼女の名前だ。しかし知り合ったのは大学に入ってからで、小学生の当時に知っているはずがない。
小学生の頃には周囲にかな子という名前の人物がいた記憶はないから、これは実在の人物のことを指しているわけではないのか?
今は忘れてしまっただけで、当時好きだったゲームかアニメの登場人物の名前なのか? それにしてもやめとけという意味がわからない。
周りの元クラスメイトたちにも何人かにそのノートを見せてみたが、かな子という名前には誰にも心当たりがなかった。


釈然としないまま郷里を離れたが、それから一週間もしないうちに彼女の浮気が発覚した。友人が里帰りしている間、ずっと他の男と過ごしていたという。
それが原因ですぐに彼女とは別れた。
かな子はやめとけ、ってそういうことだったんかな。友人は暗い顔で言う。
単なる偶然の一致だろう、彼女の浮気がショックだったからなんでも怪しく思えるんだ、とMさんは笑って流した。
しかしそのノートを実際に見せてもらうと、絵で埋まったノートの最後のページだけ、ぽつんと一行「かな子はやめとけ」と強い筆圧で書かれている。
そもそもなぜ、このページだけ絵がなくて文字だけなのか。偶然の一致で片付けるには、どうも何かの意図を感じてしまう。
あるいは本当に未来のことがわかっていてこれを書いたのでは――。そう思わせるような何かがそこにはあったという。