ススキ野原

中学生の時にかなりぐれていたというHさんは、頻繁に授業をサボって友人と過ごしていた。
溜まり場にしていたのが学校から少し離れたところにある倉庫の裏手の空き地だった。
ここは金網に囲まれた上に雑草が伸び放題で見通しが悪く、天気が良ければ隠れて時間を潰すのにはもってこいの場所だった。
田舎なので遊ぶ場所もほとんどなかったし、お金も大して持っていなかったので暇な時は大抵この空き地に行っていたという。
伸び放題の雑草の中では背の高いススキが目立っていたので、Hさんたちはこの空き地をススキ野原と呼んでいた。
ある日、また授業をサボったHさんたちは天気も良いのでいつものようにススキ野原にいた。
地べたに座り込み、覚えたばかりの煙草を吹かしながら雑談していると、いつのまにか周囲が妙に煙っていることに気が付いた。
煙草の煙かとも思ったが、野外なのに煙草程度でそれほど溜まるはずもない。
近くで焚き火でもしているのだろうか、と見回すと、Hさんたちのすぐ近くに生えていたススキの、枯れた穂の上に緑色をした塊があった。
イカより一回り大きいくらいの丸い塊が、ススキの穂の上に載っているのか浮いているのか、微動だにせずそこに見える。
何だあれ?とHさんたちが近寄ろうと腰を上げると、緑色の塊はぐにゃりと伸びて人の形になった。
粘土を不器用にこねて作ったような不恰好な人間が、ススキの穂の上に立っている。
Hさんたちは一瞬息を飲んだが、気を取り直した友人の一人が拾い上げた石を緑色の人間に向けて投げつけた。
まっすぐ飛んだ石が当たるその瞬間、緑色の人間は音もなく破裂して飛び散り、辺りには強烈な生臭さが漂った。
その臭いは一週間以上消えることはなく、あまりの臭さに閉口したHさんたちはススキ野原に行くことをやめたという。