木々

学生のEさんが連休を利用して、友人たちと一緒に旅行をした。
レンタカーを利用して栃木の温泉地に出かけ、二泊して帰ってきた。
観光地は大して回らなかったが、のんびり過ごして随分と日頃の疲れが取れたという。
帰って数日してからEさんは旅行中に撮った写真をプリントアウトして、同行した友人たちに見せた。
順番に写真を眺めていると旅行中の思い出がまた蘇ってきて、また話に花が咲いた。
そうして話をしていると、友人の一人が難しい顔をして写真を覗き込んでいる。
どうしたの、と聞くと、友人は写真の一箇所を指さした。
その写真は泊まった宿の部屋で写したもので、Eさんを含めた三人が浴衣姿で収まっている。
友人が指さしたのはその背後に写り込んでいる窓ガラスだ。
窓の外にはどうやら木々の幹が写っているようだった。
上の方が少し細くなっている木々の幹が、何本も並んでいる。
「窓の外、木なんて見えたっけ?」
そう言われてみると確かに泊まった部屋は四階で、窓の外には林など見えていなかったはずだ。
気になって確認してみると、その前後に同じアングルで撮った写真には窓に木など写っていなかった。
ならばこの一枚にだけ写っている林はなぜ見えているのか?
一同がしばし首を捻っていると、友人のひとりが件の写真をもう一度手に取って顔を近づけてしげしげと眺めた。
するとその友人は、急に弾かれたように写真を放り出し「やだ……」と呟いた。
突然そんな様子を見せたので驚いたEさんが話を聞くと、その友人はこう言う。
「それ、木じゃない。……脚。脚がたくさん」
改めて写真を見てみると、窓の外に並んで見える細長いものは確かにジーンズか何か、青っぽいズボンをはいた人間の脚のようにも見える。
窓の中ほどあたりに写っている部分が少しくびれているのは、膝のように見える。
しかも上の方が少し細いのは木だと考えれば当たり前のようにも思えたが、脚だと考えると話が違ってくる。
どう考えてもそれは逆さまに人間がぶら下がっているようにしか思えない。
それも脚の本数からして、四、五人はいる。
四階の部屋の窓の外に何人もの人が逆さまにぶら下がっていたというのか。
前後の写真に写っていないのも奇妙だった。


一度脚だと思うとどうしても脚としか見えなくなって不気味なので、Eさんはその写真のデータを消した。
プリントアウトしたものはアルバムに入れたままだが、気味が悪いのでそれ以来見ていないという。