Hさんの小学生の長男が風邪で熱を出した。Hさんは午前中に仕事を休んで長男を病院に連れて行くことにした。
車の助手席に長男を乗せて市内の病院に向かったが、車内でも長男は苦しそうにしている。
高熱のために息が荒く、時折激しく咳き込む。かわいそうに……と胸が締め付けられるような気持ちでHさんは病院への道を急いだ。
そして病院の前の道に差し掛かったときに赤信号で停止したHさんは、ふと息子の息遣いが静かになっていることに気がついた。
眠ったのかと思って隣に目をやると、何かおかしい。
息子の頭が奇妙なほど縦に長く伸びている。まるで瓜だ。
どうしたの……と声をかけると、くるりとこちらを向いた。細長く伸びた顔は息子のものに見えたが、口は顔の端から端まで亀裂のように大きく開いていて、薄い唇の内側にスイカの種くらいの歯がびっしり並んでいるのが見えた。
後ろの車からクラクションを鳴らされてはっと気がつくと青信号になっていて、また隣に目をやると息子の姿がない。
混乱しながら急いで家に戻ると、息子は布団の中で寝ている。話を聞くと、その日は朝からずっと寝ていて家から出ていない。Hさんは一人で出かけていったという。
しかしHさんは確かに家から息子を車に乗せていったはずだった。どこでどうなっていつの間にあんなものが助手席に乗っていたのか、全く理解できなかったという。