後遺症

Rさんは幼い頃、公園の遊具から落ちて大怪我をした。
祖父母に連れられて行った公園で遊んでいるときに起きた事故だったようだが、Rさん自身にはそのときの記憶はない。聞いた話では三歳のときのことらしい。
ジャングルジムから落ちたRさんは頭を打ち、一時は命が危ぶまれるような重傷を負った。祖父母が目を離したほんの数秒の出来事だったらしい。
治療のおかげで一命は取り留めたものの、その後Rさんはずっと後遺症に悩まされた。
突然数秒間意識が途切れたり、急激な吐き気に襲われたりということはしょっちゅうだった。急に両手がしびれることも少なくなかった。
これらは物心ついた頃からずっとRさんを悩ませてきた。繰り返しこうした発作が起きるので人間にとって当たり前のことかと思っていたら、他の人はそんなことはなくて自分だけだというので随分理不尽な思いをした。なぜ自分だけこんな苦しいのだろう。
発作が起きるたび大人たちは口々に気の毒だと言い、怪我をしたときに一緒にいた祖父母は本当に済まなさそうな顔をした。


Rさんが十五歳のとき、祖父が脳卒中で亡くなった。怪我のことで複雑な思いはあるものの、Rさんに対してずっと優しかった祖父にもう会えないと思うとやはり寂しかった。
四十九日の夜、Rさんは夢で祖父を見た。
祖父は生前と変わらない元気な様子で、Rさんに語りかけた。
「持っていくからな、もう心配ないからな」
もう少し何か会話があったような気もするが、夢の内容はそのくらいしか覚えていない。
その後、なぜか発作が一切起こらなくなった。何だかこの頃楽だなあと思ったら、一ヶ月経っても二ヶ月経っても発作がない。
そこで夢のことを思い出した。
――持っていくからな。
両親や祖母にこの話をすると、みな涙ぐんだ。おじいさんは怪我のことをずっと気に病んでいたからね、Rちゃんがもうつらい思いをしないようにあの世に持っていってくれたんだねえ。
現在Rさんは三十代半ばだが、あれ以来一度も発作は起きていないという。