ある街の郊外に大きなホームセンターが開店した。
大々的に広告を打った効果もあり、客の入りは上々だった。
開店から一ヶ月ほどした頃、大学生のFさんがこの店のアルバイトに採用された。
Fさんは三週間ほど働いたあたりで、あることに気が付いた。
かなり頻繁に売り物の自転車の配置が変えられているのである。
並んでいる順序だけでなく、並び方も日によってまちまち。
こんなに何度も並び方を変えるなんてそれだけでも随分な手間のはずなのに、なぜそんなことをするのだろう?
疑問に思ったFさんは、スポーツ用品売り場の社員に尋ねてみた。
――あ、気が付いた?いや、大した理由があるわけじゃないんだけどさ。
なぜか社員の返事は歯切れが悪い。
その態度を見て余計に気になったFさんが更に問うと、社員は声を潜めた。
――うん、そんなに言うなら教えてあげよう。でもそんなに大したことじゃあないからね。
社員はその場ではそれ以上説明しようとせず、その日、閉店後も少し遅くまで残るように言った。
Fさんがその通りに閉店後、後片付けを済ませてから控え室で待っていると、やがて社員が呼びに来た。
後を付いて暗い店内を行くと、じきに自転車売場が見えてきた。
しかし何やら、電気の消えた自転車売場から機械が動くような音が聞こえる。
――電気をつけるから落ち着いて見るんだよ。
店員が明かりを点けに裏に向かい、ややあってぱっと売り場が明るくなった。
Fさんの目の前には、売り場内をぐるぐると回り続ける自転車の群れがあった。
誰も乗っていない自転車がひとりでに店内を走り回っているのだ。
どれも売り場に置いてあるもののようで、サドルにはみなビニールが被せられている。
あまりの光景に呆然とするFさんを他所に、それから数分間自転車たちは動き続けた。
そして一斉にキキーッ!と大きなブレーキ音を立ててその場に停まった。
いつのまにか戻っていた社員が言う。
――閉店後しばらくするとこうなるんだよ、毎日。勝手に動くからいつも場所が変わっちゃうんだよね。最初の頃は並べなおしてたんだけど、特に害はないし、大変だからそのまま放っておいてるってわけ。
面食らったFさんだったが、社員の説明があまりにあっけらかんとしていて、何だか本当に大したことのないような気がしてきて、結局その後大学卒業までその店のアルバイトを続けた。
辞めてからしばらく経って、やはりあれは只事ではなかったのではないか、と気になりだしたという。