閉めずの扉

Tさんが高校生のときにOという友人がいた。
高校に入ってからできた友人だが、何かと気が合い、お互いに家に遊びに行くこともあった。
そうして何度目かにOの家に行ったとき、ふとTさんの目に留まったことがあった。
Oが二階にある自室のドアを閉める時に、いつもほんの少しだけ隙間を開けたままにしておくのである。
それもOの部屋だけでなく、二階の部屋はすべてドアが半開きか全開になっているのだ。
過去に遊びに来たときには気にしていなかったが、以前からそうだったのかもしれない。
理由をOに尋ねても、換気だとか何とか言葉を濁しながらそのまま開けておいてと言う。
換気なら窓を開ければいいのにと思ったものの、深く追求せずにいた。


高校卒業を控え、お互いに進路も決まり、高校最後の思い出としてTさんがOの家に泊まりで遊びに行くことになった。
やはりこのときも二階のドアは開いていた。
夜遅くまでOとゲームをしたり話したりして楽しく過ごし、午前三時を過ぎてようやくもう寝ようということになった。
布団に入る前に一階のトイレに行ったTさんは、階段を上がってから正面の部屋の前でなんとなく立ち止まった。
以前はOの兄が使っていた部屋で、現在は物置になっているという。やはりドアは半開きだ。
どういうわけか、Tさんはきまぐれにその部屋のドアを閉めた。半端に開いているのが前からどうにも気になっていたのである。
これでよし、と思った瞬間、目の前でドアがすっと開いた。部屋の中から誰かがノブを握っているのが隙間から見えた。
階段の照明に細く照らされたその顔は、Tさん自身だった。
部屋の中の人影はすぐに死角に隠れてしまったが、間違いなく自分の顔だという確信があった。
Tさんはそれ以来Oの家に一度も行っていないという。