出ていったもの

Eさんは大学生の頃からよく金縛りになった。
寝ているとふっと目が覚める。意識ははっきりしているのに体が動かない。
初めてそうなった時には動揺したが、また眠って起きたときには体が動くようになっていたし、回数を重ねるごとに慣れてしまった。
体が動かなくなっているときには変なものも見える。
よく出てくるのが、走り回る小人だ。寝ているEさんの周囲を好き放題に走る。手のひらくらいの大きさなのだが、しきりに走り回っていてはっきり姿が捉えられない。
小人以外にも、大きな足が部屋を横切っていったり、赤と青の毛糸が絡まった玉が胸の上に載っていたりと、色々なものが出た。
金縛りは脳の一部が眠ったまま意識が覚醒している状態だとEさんは何かで読んだことがあった。
だから色々なものが見えるのも夢と同じようなものなのだろうと思い、特に気にしてはいなかった。


大学を出て就職したEさんは三十歳のときに結婚した。
結婚二年目のある夜、自宅でひとり寝ている時に金縛りになった。
例によって周りを何かが走っている。
すると突然走る気配が止まった。ドアを開けて、何かが部屋を出ていく。
走っていた気配よりもずっと多い何かが続々と出ていった。視界の外なので彼らの姿はよくわからないのだが、何だか皆揃ってがっかりした様子なのが伝わってきた。
直後、Eさんの体は動くようになっていた。部屋にはもうEさんの他に誰もいない。不思議だったのは、ドアが開いたままだったことだ。
Eさんはどういうわけか酷く寂しい気持ちになったという。
このことと関連があるかどうかはわからないが、この直後に妊娠していることがわかり、Eさんは翌年長女を出産した。
それ以来金縛りには一度もなっていないという。