高層ビル

祖父の一周忌のためにEさんが岡山県にある母の実家に泊まった夜のこと。
お風呂上がりに歯を磨きながら庭に面した窓の外を何気なく見たEさんは、そこから望む山のあたりに沢山明かりが点いているのを見つけた。
山と言っても夜中のことで黒いシルエットしか見えないが、その上の方にいくつもの明かりが縦横に四角く並んでいる。
そこに建っている高層ビルの窓から明かりが見えているようだった。
――前来た時はあんな所にビルなんかなかったな、いつの間にできたんだろ。
近くにいた母にも何か知らないか聞いてみたが、母は窓の外をちらりと見て「ホント、いつの間に」と言っただけですぐ興味を失ってしまったようだった。
確かにそう気にすることもないなと思ったEさんは洗面所に行って口をすすぎ、また先程の窓まで戻ってきた。
するとその短時間で先程の明かりがすっかり消えている。
あれだけの明かりを一気に全部消すなんて、消灯時間か何かだったんだろうか。
そう思っていると、今度は先程の山の右隣の山に同じような明かりがぱっと点いた。
あっちにもビルがあるのかとも思ったが、ずらりと並んだ窓の明かりが一気に点くのはなんだか奇妙ではあった。
しかも見ているうちに明かりのいくつかが車のウインカーのように定期的に点滅を始めた。
何をやっているんだろう、と見ていると今度はその明かりが縦横の整然とした並び方を崩さないまま、すーっと上に移動してあっという間に山の向こうへと消えていった。
ビルが……飛んでいった!?


翌朝もう一度同じ辺りを眺めてみたが、木が生い茂っているだけで高層ビルなどどこにもなかったという。
「多分UFOだったねあれは」Eさんはそう語った。