演歌

Wさんが彼女と外食したその帰りのこと。隣町の高台の公園が夜景で評判だと噂に聞いたので、ドライブがてら行ってみようということになった。
話で聞いた通り高台からの街明かりは見事で、他にもちらほらそれを見に来たらしき車が停まっている。Wさんたちも車から降りてその眺めを堪能した。
ただ季節は春先でまだ風が冷たい。冷えてきたのでそろそろ帰ろうと車に乗り込み、エンジンをかけたところでカーステレオから知らない歌が流れ出した。
メロディーと小節のきいた歌い方から演歌のようにしか聞こえないものの、歌詞が日本語ではない。かと言って何語なのかもよくわからない、聞いたことのない言葉だった。かすれた男の声が知らない言葉で演歌を歌っている。
しかしそんな曲がなぜ流れるのだろうか。車を停めるまではCDで映画のサウンドトラックを流しており、エンジンをかけてもその続きが流れるはずだ。いつの間にかラジオに切り替わっていたのかと液晶の表示を見ると、CDのままになっている。あの映画のCDにこんな演歌みたいな曲は入っていない。
いつの間にかCDが入れ替わっている?
なんでだ、と曲を停止しようとしたところ、ボボボボボ……と風が唸るようなノイズが入って映画のサントラに切り替わった。
「今の演歌みたいなの、何……?」
助手席の彼女が怪訝な顔で言ったが、Wさんも何とも答えようがない。
また聞き覚えのない曲が流れ出したらと思うと気分が悪いので、Wさんは家に着くまでの間カーステレオを切ったという。