内線

茨城県のある中学校でのこと。
夜七時過ぎのこと、職員室に二人の先生が残って仕事をしていた。仮にA先生とB先生としておくが、彼らはどうしても翌日までに終わらせなければならない仕事があり、他の先生たちが帰った後もそうして残って作業していた。
そこへ電話がかかってきた。内線の時に流れる呼び出し音だった。
電話がある事務員席にはA先生の方が近かったので、彼が立ち上がってすぐに受話器を取った。
A先生が無言のまま受話器を置いたので、B先生は顔を上げて尋ねた。
「どこからでした?」
「いや……すぐ切れた」A先生は渋い顔をする。
そもそも他の先生は全員帰ったはずで、生徒ももう残っていないはずだ。校内にいるのは職員室にいる先生二人だけで、内線がかかってくる事自体がおかしい。だが仕事を早く終わらせて帰りたかったので、二人ともそれ以上追求せずに作業を再開した。
――数分して、また内線がかかってきた。
思わず二人は顔を上げ、困惑の表情で数秒間電話を眺めた。
今度はB先生が電話の所まで歩いていって、ディスプレイに表示されている内線番号を確認してから受話器を取った。
耳に当てるともう切れている。受話器を置きながらB先生は言った。
「体育館からでした」
「さっきのもです」
A先生が苦笑して答えた。
また二人は作業に戻り、程なくして仕事を終えた。それから体育館の様子を確認することもなく、すぐに学校を出た。


体育館の内線電話はしばらく前に撤去されて通じないはずなのに、今でも時折そうやって職員室にかかってくることがあるらしい。回線を点検しても原因はわからないままだという。