帰宅

Mさんが就職して間もない頃の話。
毎日研修続きで帰宅はいつも遅かった。
その日もくたくたになって帰ると、居間にいた母が怪訝な顔をしている。
「あんた、帰ってきたばっかりでまた出かけてたの?」
「何のこと?今駅から帰ってきたところなんだけど」
「え?何言ってんのあんた、さっき帰ってきて晩ごはん食べたじゃない」
そんなはずはない。
しかし台所の流し台には確かに、今しがた洗ったばかりのMさんの茶碗や箸が濡れたまま置いてあった。
詳しく話を聞くと、一時間ほど前にMさんが帰ってきて、母の目の前で夕食を食べたという。
特に変わった様子はなかったようで、食後はいつものように自室に引き揚げていったのだという。
Mさんがすぐに自室に踏み込むと電灯が点いたままで、机の上には半分ほどコーヒーが入ったカップが置いてあった。
コーヒーはすぐに捨てた。


薄気味が悪いので、それ以来あまりコーヒーを飲まなくなったという。