座布団

夕方、主婦のEさんが買い物から帰ると玄関に靴が沢山脱いであった。
革靴やらスニーカーやらが合わせて十足ほど、綺麗に揃えてある。どれも家族のものではない。
スニーカーが混ざっているあたり、息子が友達を連れてきているのだろうと思ったところ、案の定息子の部屋のある二階から笑い声が響いてきた。
「お友達が来てるの?」
階段の下から二階に向かって声をかけたが、ざわついた声が響いてくるばかりで返事がない。
さぞ盛り上がっているのだろうと、そのまま放っておいて居間に腰を落ち着けた。
夕飯の仕度をするまではまだ少し余裕があったので、テレビでも見ていようとリモコンに手を伸ばした時、玄関が開く音がした。


「ただいまー」
帰ってきたのは息子だった。
「あら、あんた友達来てるのに出かけてたの?」
「は?友達?」息子は首を傾げた。
「だって部屋に誰か来てるじゃないの、靴も沢山あったし」
「靴?どこに?」
玄関を見に行くとさっきは確かにあったはずの靴が、いつの間にか無くなっている。
しかし二階から降りて玄関に行くのには居間の前の廊下を通らなければならない。
居間にいたEさんは息子が帰ってくるまで、誰の姿も見なかった。
それでは靴はともかく、まだ二階に誰かいるのだろうか。
「本当に友達が来てるんじゃないの?」
「だって今帰ってきたところだし……」
Eさんは息子と顔を合わせたが、とりあえず二階の様子を確かめることにした。
恐る恐る階段の下に行ってみたが、先程とはうって変わって静まり返っている。
思い切って二階に上がり、息子の部屋のドアをゆっくり開いてみると、果たしてそこには誰もいなかった。


ほっと胸を撫で下ろした二人だったが、よく見ると部屋の様子には奇妙な点があった。
普段は一階の押入れに仕舞ってあるはずの座布団が、床に隙間なく敷き詰められていたのである。
座布団は、たった今まで誰かが座っていたかのようにへこんでいたという。