角錐

新潟に引越した人の話。
引越し先のアパートの近くの公園から山に通じる遊歩道があり、休日に時々そこを一時間ほど散策するようになった。
ある日曜日、この遊歩道を一人で歩いていると、行く手に見える木々の間に銀色の何かが覗いた。
何だろうと思いながら近づいていったところ、そこにあったのは得体の知れない大きな銀色の物体だった。
ピラミッドを縦に引き伸ばしたような細長い角錐で、しかも周囲の杉の木と同じくらい背が高い。
それがゆっくりと音もなく回転している。そんな巨大なものが無音で動いているのは何とも不気味だった。
表面は鏡張りのようになっているので、回転に従って周囲の木々を万華鏡のように映し出している。
それが何なのかわからないが、少なくともこんな山の中に普通にあるようなものとも思えない。
正体がわからないから、近くに行って触ってみるのも何となく怖い。
携帯電話で消防か警察にでも通報しようかと思ったものの、取り出した携帯には圏外の表示が出ている。
しかし以前遊歩道内で携帯を使った覚えがある。
おかしいな……と思いながら視線を戻すとあの物体が目の前にない。
えっ、と周囲を見回してもどこにも見えない。あれだけ巨大な物体が、携帯の画面に目をやったほんの数秒のうちに、音も立てずに消えていた。
嘘だろ……?
呆然としながら携帯に目を戻すと、その時には電波が通じていたという。