光るもの

ある人が定年退職してから東京を離れ、和歌山の田舎に古民家を買って住み始めた。
昼は見よう見まねで畑仕事をし、夜は奥さんとゆっくり晩酌をするというのどかな生活が続いた。
そんなある日の深夜のこと。
寝ていると庭で飼っている犬が激しく吠える声で目が覚めた。
こんな時間になんだ。不審者でも来たのか。
カーテンの隙間から庭を覗くと、なぜか妙に明るい。
庭の真ん中あたりに皓々と光る丸いものかあり、犬はそれに向かってさかんに吠え立てている。
辺り一面がその丸いものの発する光で昼のように照らされていた。
一体なんだありゃ。
玄関に回り、サンダルをつっかけて庭に出て行くと、やはり光る何かがそこにあって、犬も相変わらず吠えている。
犬をなだめつつも恐る恐るその光るものに近寄っていったところ、あと数歩で丸いものにたどり着くというところでふっと光が弱まった。
あっ、と思った瞬間にその丸いものはシュッと軽い音を立てて真上に飛び上がり、そのまま山の方へと瞬く間に飛んでいってしまった。


後で近所のお年寄りにそのことを話したものの、今までそんな話は聞いたことがないということだった。
天狗かなァ、と言ってお年寄りは笑ったという。