九月某日

ある人が三年間の期限で遠くに転勤になった。
一年目の九月のある日、アパートに帰るととてつもない悪臭がする。
腐った水をぶちまけたような臭いだった。
慌てて窓を全開にし、換気をしながら臭いの元を探した。
しかし部屋の中は朝に出勤したときのままで、特に変わったところはない。
生ゴミは溜めていないし、部屋の中には臭いの発生源になりそうなものはなかった。
窓の外の空気は臭くなかったから、部屋の中に原因があるように思えたが、それが何なのかがわからなかった。
屋根裏か床下で動物でも死んでいるのか?とも考えたが、それにしては臭いが強い。
死骸を部屋の中に幾つも放置しなければこんなに臭わないのではないか、という程だった。
窓を開けていても一向に臭いが薄まる様子がない。
仕事で疲れていたこともあり、その夜は鼻にティッシュを詰めた上で頭から布団を被って寝てしまった。
翌日以降も臭いが気になるようなら、管理人に相談して調べてもらおうと考えていたが、翌朝には嘘のように臭いは消えていた。
問題がなくなったので、じきにそのことは忘れてしまった。


翌年の九月のこと。
仕事から帰ってくると、またとんでもない悪臭が鼻を衝いた。
一瞬で、一年前の出来事を思い出す。
鼻をつまんで息を止めながら、また窓を全開にして様子を見るが、昨年と同様で臭いは一向におさまらない。
気にしていなかったのでうろ覚えだが、もしかしたら日付も前年と同じではないか?
そんな気がした。
翌朝にはすっかり臭いが無くなっていたのも同じだった。
これはどうも、ただの悪臭ではないような気がした。


三年目の九月。
昨年、悪臭がしたのと同じ日付の夜。
半ば覚悟しながらアパートのドアを開けた。
――むせ返るような腐敗臭。
すぐにドアを閉め、その日は市内のビジネスホテルに泊まったという。