完全犯罪

知ってる?
体の大きさにかかわらず、動物の心臓が一生に脈打つ回数はみんな同じなんですって。
ゾウも、ネズミも、もちろん人間も、一生の脈拍は同じ回数なの。
小さい動物は脈が速いからそのぶん寿命が短くて、逆に大きい動物は脈が遅いから寿命が長いんだって。


……そうすると同じ人間でも、他の人より脈が速ければ早く寿命が尽きるってことじゃない?
だから私は、あなたを夢中にさせて、いっぱい心臓を高鳴らせて、早く終わりがくるようにしたの。
私と一緒にいればいるほど、あなたの脈は速くなる。
もっとドキドキすればいい。
そうしてあなたみたいな人でなしは、早く死んでしまえばいい。


でも、誤算がひとつ。
それは、私の脈まで速くなってしまったこと。

二十二/ 山道

よく晴れた日のこと。
Iさんは車で山道を二時間ほど辿ったので、そろそろひと休みしようと思った。
トンネルを抜けたところで路肩が広くなっていたので、いいタイミングと思いそこに停車した。
外の空気を吸おうと思い、車を降りてドアを閉めたとき思わず「えっ?」と声が出た。
車は、たった今まで雨の中を走ってきたかのようにずぶ濡れだった。
フロントガラスにも一面に水滴が付いている。
こんな状態ではワイパーを動かさなければ走れない。
しかしたった今降りるまで四方のガラスに水滴などなかったし、当然ワイパーを動かさずとも走行に全く支障はなかった。
空には雲ひとつない快晴で、周囲の路面も全く濡れていない。
一体車はいつ濡れたというのか。
Iさんには車を降りた一瞬で濡れたとしか考えられなかったが、一瞬でも雨が降ればわかったはずである。
狐につままれたように思ったIさんは、そそくさとその地を後にした。
その後は特に問題もなく山道を抜けた。
次に降りた時には車はすっかり乾いていた。

二十三/ うわっ

Oさんはその日、ひどく疲れていたので帰宅して自室に入るなりすぐさまベッドに倒れこんだ。
枕に顔を押し付けた瞬間「うわっ」と小さく声がして枕の下で何かがもぞっと動いた。
Oさんは飛び起きてベッドから離れると枕を観察してみたが、枕はいつもの見慣れた枕である。
それから動く気配が一向にないので恐る恐る枕を跳ね除けてみたが、下にはただ布団があるだけで変わったところはない。
しばらくそのままにしてみても特に変化がないので、Oさんは改めて寝ることにした。
後になってから思い返してみて「うわっ」という声が本当に意外そうな声だったので、Oさんは少し悪いことをしたかな、と思ったという。