第2番 巫蠱

蠱毒、というものを知っているか。
器の中に蛇、百足、蜘蛛といった毒虫や小動物を入れ、互いに食い合わせる。
そして最後に残った一匹は強力な毒や魔力を持つようになる、という呪術だ。
これに倣い、器の中に姉、妹、幼馴染、ツンデレといった多種多様な萌えキャラを入れ、互いに食い合わせる。
然すれば、最後に残った一体は、強力な萌えを持つようになる。


父は淡々とそう語った。
何を言っているのかわからない。
果たして正気なのかどうか。
「それが、何?」


父はしばし無言の後、言った。
――そうして生まれたのがお前だ。

第3番 のびあがり

仕事でとある山村に出かけたときのことである。
日中、田舎道を歩いていると向こうからセーラー服姿の女子学生が歩いてきた。
いまどき街中では珍しくなった黒髪ストレートが似合う少女である。
目を引かれて距離が遠いうちから見とれていると、何だか距離感覚が狂った気がした。
風景がどんどん縮んでいくように見える。
しかし一瞬あとにそうではないことに気が付いた。
少女のほうがどんどん大きくなっているのだ。
すでに少女は見上げるような大きさになっている。
そればかりか、見上げれば見上げるほど大きくなってゆく。
あまりのことに、どうしていいかわからない。
このまま見ていてはいけない。
とにかくそう思って視線を下に向けようとしたとき、ふっと意識が途切れた。


気が付くと道端に倒れていて、あたりには誰もいなかった。
時計の針はほんの10分ほどしか進んでいなかった。

第4番 ツンデレを見た人

ある雑誌記者から聞いた話である。


取材で東北地方に行った時、歩いていろいろなところを巡っているうちに、ひとつの小さな村に行きついた。
簡素な村なのだが、しばらく行くと、手に手に竹竿や鍬などを持った十数人の村人がひとかたまりになって上の方を指さしたりして、わいわい騒いでいる。中にはほうきを持ったおばあさんや、猟銃を持ったじいさんまでいる。
「あのう、どうかしたのですか?」
なにが行われているかさっぱりわからず、村人たちに聞いてみる。
「あすこのな、電線にな、さっきまでツンデレがとまっとったんじゃ」
ツンデレ?なんですか、それ」
「あんた、知らんのけ、ツンツンしてデレデレするあのツンデレじゃ」
「みなで捕まえようとしたんじゃ、んだども逃げられた」
やがて村人たちは、わいわい言いながらそれぞれの仕事に戻ったという。


(元ネタ:『新耳袋』第一夜 第六十七話「天狗を見た人」)

第二回萌理賞

http://q.hatena.ne.jp/1154079537
とりあえず今日の仕事が終わって帰宅した段階で空きがあったら投稿しよう、と思い一日働いてきたらまだ定員の半分くらいだったので投稿。
遺跡を見て萌えストーリーを描ける奴はきっと何を見ても萌えることができるよね、と思って書いた。ライト兄弟と妹の話にしようかとも思った。
考古学を完全に無視してますが伝奇のつもりで書いたので良し。
伝奇って何書いてもいいんじゃろ?どうせ昔のことなんて本当のところはわからんのですよ。(伝奇小説を完全に誤解)


今のところの投稿作の中ではxx-internet氏とmizunotori氏のが個人的に注目作です。xx-internet氏には完全に愉快犯な所にシビれる憧れる。mizunotori氏の作品は、同じことをチラッと考えたんです。でも上手くまとまりそうもなかったんですぐ忘れたんですが、それを形にされてしまったので「やられた!」と思いました。三段落目に萌えた。