Eさんがそろそろ夕食の支度をしようと思ったところで、小学生の長男がどんぐりを拾って帰ってきた。
十や二十ではきかない数をポケットやランドセルに詰めて満足気だ。
仕方ないわね、と呆れながらEさんはビニール袋を長男に渡し、散らばらないようにどんぐりをそれに入れさせた。
夫はいつも帰りが遅いので夕食は長男とEさんの二人で食べる。夕食後に長男は居間で宿題にとりかかり、Eさんは食器の片付けを始めた。
洗い物の最中に、近くでガサッと音がした。
反射的に視線を向けると、音がしたのはどうやらそこのビニール袋のようだった。先程長男がどんぐりを入れた袋である。今は台所のカウンターの上にある。
カサッ。
またビニール袋が音を立てた。そして僅かに動いたのも見えた。
何か中にいる……!?
長男はどんぐりと一緒に虫かなにかを拾ってきたのだろうか。それともゴキブリか何かが入ったのか。
殺虫剤スプレーはどこに置いただろう――などとEさんが思ったところで、袋の口から何かがもぞもぞと出てきた。
虫ではない。どんぐりがひとりでに動いて袋から這い出している。
どんぐりのような虫かとも思ったが、どう見てもどんぐりだ。
しかも一個ずつバラバラにではない。何個ものどんぐりが、蛇か芋虫のように繋がって動いている。見えない糸で繋がっているかのようだ。
えっ、どういうこと……?
不気味なことは不気味なものの、同時に好奇心が刺激されたEさんはもっとよく見てみたくなり、息を殺してゆっくり袋に近づいていった。
しかし手を伸ばせばどんぐりに触れられるくらいの距離まで近づいたとき、どんぐりはぴたりと動きを停めてしまった。七個ほどが袋からはみ出している状態のまま、それ以上動こうとしない。
Eさんが恐る恐る指先でつついてみると、繋がって動いていたどんぐりはバラバラに転がった。
動いていたことよりも、バラバラに転がったことの方がなぜかEさんには不気味に感じられたのだという。
どんぐりは袋に詰め直してから口を固く縛り、長男の反対を押し切って捨てた。