人魂

Aさんは埼玉の実家で人魂を見たことがあるという。
夜中、廊下の向こうに白っぽい塊が浮かんでいる。
それを見た途端にAさんはなぜか「あ、人魂だ」と思ったらしい。
その時はそれ以上確かめようという気も起こらず、そのまま部屋に戻って寝た。
翌朝になってから、そういえば昨夜のあれは人魂だったな、と思い返して家族に話した。
しかし全く信じてもらえない。
いくら本当だと言っても見たのはAさんだけだったし、特に証拠もないのでそれ以上主張のしようがなかった。


それから三ヶ月ほど経った頃の夜、Aさんはまた家の中で妙なものを見かけた。
前を通りかかった部屋の中に、何やらぼんやりと白いものが見える。
以前の人魂の件を思い出したAさんは、今度は近くではっきり確かめてやろうと思い立った。
ゆっくり部屋に入って近づいてゆくと、そのぼんやりしたものがよく見えてきた。
ぼんやりとした霧のようなものが、机に突っ伏した人の形をしていたという。
そしてもう一歩踏み出せば手が届きそうな距離に近づいたとき、その何かはすうっと闇に溶けるように見えなくなった。
今度こそはっきり見たので翌日、家族に詳しく語って聞かせたAさんだったが、今度もまた信じてはもらえなかった。


三度目があるならば、今度は携帯で写真を撮って家族に突きつけてやろうとAさんは待ち構えているという。