天国への道、或いはカブトムシカブトムシカブトムシ以下略

現代人は保存料のたっぷり入った食料を日常的に摂取しているせいで死後も中々腐らない。
という話を何度か聞いたことがありますが、さてそうなると気になることが出てきます。
現代人を好んで捕食する生物がいた場合、或いは更にその生物を好んで捕食する生物がいた場合、そういった生物は現代人よりももっと腐りにくいのではないでしょうか。
いわゆる生物濃縮です。
現代人より捕食者順位が上位であるほど、その生物は体内の保存料濃度が高くなります。
よって腐りにくくなります。

ジョジョ二部を例にしてみましょう。
現代人を捕食する屍生人(ゾンビ)。
屍生人を捕食する柱の男。
柱の男たちが数千年間、腐りもせずにいたのはそういう理由からではないでしょうか。
況や柱の男を超えた完全存在カーズ様をおいておや。
結果彼は腐りもせず宇宙を彷徨います。
宇宙は空気がないから腐るわけないですか。そうですか。

ジョジョを持ち出すまでもなく「腐らない死体」「生前そのままの死体」は吸血鬼の特徴でもあります。
吸血即ち人類を捕食することです。
彼らは吸血により、エネルギーと同時に保存料を体内に取り込んでいるのです。
彼らにとって吸血は二重の意味で永らえる為の手段であるわけです。

ここへ来てカニバリズムにもう一つ意味が生まれます。
死後の永遠です。
古代エジプトのミイラ、馬王堆漢墓の湿屍、本邦では即身仏、近代に至ってはレーニンホー・チ・ミンなどなど、意味や目的は様々ながら死者の遺体を永久に保存しようとした例は枚挙に暇がありません。
遺体の保存は人類の欲求の一つの表れといえるでしょう。
しかしこれらの例は、あくまでも本人の死後に他者の手による加工を受けて為されるものです。
しかし、現代人を食することにより、本人の積極的な行動として死後の永遠を目指すことができるのです。

そうやって永遠を目指して現代人を捕食する現代人が増えてくると、やがて彼らはお互いに食い合うことになる定めです。
お分かりでしょう、彼ら自身の保存料濃度は並の現代人の何倍もの水準です。
地道に並の現代人を食すより、互いに食い合うほうがはるかに効率的です。
そうして最後に立っている食人者は一人になります。
「頂点は常にひとり」そうカーズ様も言っていました。


遠い未来、そこには永遠を手に入れたただひとりの食人者がいることでしょう。
彼は決して腐りません。
時は最早彼に敵しません。
即ち「ザ・ワールド 時は止まった」
或いは「終わりがないのが終わり それがゴールド・E・レクイエム」

十三/ 公園の鳥

その日、Hさんは偶々公園のベンチに座って昼食をとっていた。
前日の俄か雨で公園には点々と小さい水溜りができていた。
コンビニで買ったパンと缶コーヒーを流し込みながら、ぼんやり目の前にある水溜りを眺めていると、不意にそこに波紋が起こった。
風もないのにおかしいな。
そう思うと、またすぐに波紋ができた。
どうも風に吹かれた波ではないように見える。
何かが水に落ちたような水の跳ね方である。
しかし何かが落ちてきたわけでもない。
上を見たが落ちてくるようなものもない。
首を傾げながら視線を戻すと、思わず目を見張った。
水溜りの端にもう一つ波紋が起きたかと思った次の瞬間、水溜りの外のアスファルトに鳥の足跡がぺたぺたと現れたのだ。
そこにいるはずの鳥の姿は影も形も見えないのにも関わらずである。
Hさんが呆然と見ている前で、足跡は二、三歩進んでそれ以上増えなくなった。
数分して我に返ってから、多分あれは飛んでいったんだな、と思い至った。
「公園にいる鳥だし、足の大きさからすると鳩だったんじゃないかな」とHさんは言う。