よろこぶ七十七日目


ふと気がつくと部屋の中央にクロゴキブリの脚が一本だけ落ちていた。
本体はどこに忘れてきたのだ。
脚一本で歩いてきたというのか。
あるいはこの脚の主が後で取りに来るかもしれない。
渡辺綱に腕を切り落とされた茨木童子のように。
そう思いながら拾い上げて灯りに透かすと、並んだ棘が艶やかに煌いたのだった。