片脚

近所の桜が満開ということで、Sさんは友人達に声をかけて花見に出かけた。
曇り空ではあったが風は弱かったので、吹き散らされることもなく花を楽しめた。
用意した弁当とビールでいい気分になっていたSさん達だったが、友人の一人の様子が少しおかしい。
普段は口数が多い方である彼女が、その時は妙に大人しく黙り込んでいる。
具合が悪いのかと聞いてみても、そんな事はないと首を横に振るばかりで、言葉を濁してしまう。
弁当を食べ終わった頃に少し風も出てきて、いささか肌寒さを感じてきた事もあったので、長居をせずに帰ることにした。
すると帰り道で、様子がおかしかった友人がその理由を話し始めた。
青い顔をして彼女が言うことには、花見をしている間ずっと変なものが見え隠れしていたという。
見えていたのは人の脚だったらしい。
ストッキングを穿いた、恐らくは女性の細い脚が、視界の上の方にちらついていたという。
はっとして上を見ても、そこには桜が咲いているだけで変わった物は何もない。
しかしまた視界を下に戻すと、ふとした拍子に脚が視界に入ってくる。
見えるのは脚が一本だけで、二本同時に見える事はなく、それも不気味だったという。


薄気味悪いから早く帰りたかったんだけど、みんな楽しそうだし、言い出せなくて……。
蒼白な顔をしてそう言った彼女は、酔っているようにも、嘘や冗談を言っているようにも見えなかったという。