歪む姿見

Cさんが大学進学のために引越したアパートの部屋には、壁に姿見が掛けられていた。前の住人が置いていったものだという。
鏡は洗面所のもので十分だと思っていたCさんだったが、せっかくなので便利に使わせてもらうことにした。
しばらくして大学で同期の女の子と付き合い出したCさんは、彼女を部屋に招いた。
部屋に入ったときから彼女が落ち着かなくなった。ねえCくん、この鏡なんか変。
変と言われてもいつも通りの姿見で、特に変わったところはない。
そう答えると彼女は目を逸らして姿見から離れた窓際に腰を下ろした。
それからしばらく二人で話していると、急に彼女が立ち上がってCさんの腕を取る。ちょっといいから来て。
硬い表情の彼女に戸惑いつつもCさんは従って二人で外に出た。
やっぱりあの鏡おかしいよ。真剣な顔をして彼女は言う。
話の最中にCさん越しに見える姿見が、呼吸をしているかのように規則的に膨らんでいた。
膨らむその鏡に、部屋の光景が歪んで映る。その様子が気持ち悪くて、たまらず部屋を出てきたのだという。
部屋に入ったときにも、姿見に映る彼女の姿だけが歪んで映って見えていたという。
背景やCさんは普通に映っていたのに彼女の姿だけが奇妙に引き伸ばされるように歪んでいたのがどうにもおかしい。
結局その日はそのまま彼女は帰ってしまった。部屋に戻ってみるとやはり姿見に変わったところはない。
彼女が怖がるので訪ねてくるときだけ姿見に布をかけるようにしたCさんだったが、半年ほどでその彼女とは別れてしまった。
姿見は大学を卒業してその部屋を離れるまでずっと使ったが、Cさん自身に特に変わったことは起きなかったという。