チェックのシャツ

Hさんが電車に乗っていたときのこと。
座席に座っているHさんの目の前に、こちらに背を向けて立っている乗客がいる。チェックのシャツを着た男性だ。
ふと視線を上げたところで、視界の中でそのチェック柄のシャツだけが変にぼやけたように見えて二度見した。
目の錯覚だろうかと思ってしげしげと眺めてみたが、やはりチェック柄がつくる多数の小さな四角形ひとつひとつに灰色のぼんやりした点が浮かび上がっている。
そういう模様にしては、むずむずと波打つように動いているようにも見える。
そのまま凝視していると、次第にそれら灰色の点は焦点が合うようにはっきりした像を結んだ。
漢字だ。チェック柄を原稿用紙のマス目のようにして、シャツの上に漢字が並んでいる。文章の意味はわからない。
なんであんなものが見えるんだろう、と目を細めてよく見ようとしたところで電車が急ブレーキをかけて、車内の乗客が一斉に体勢を崩した。
人身事故とのことだった。
視線を戻すと、先程のチェックのシャツからは漢字が跡形もなく消えていた。


あれはもしかしたら、お経だったのじゃないかと思うんですけどね。Hさんはそう結んだ。