高校生のUさんには二つ年上の姉がいて、姉が大学進学で家を出るまでは同じ部屋で寝ていた。
まだ姉が家にいた頃のこと、Uさんが夜中に寝苦しさのあまり目を覚ますと、なぜか身動きが取れない。布団が妙に重くて身体に絡みついてくるような感覚だった。
首だけ動かせたので苦し紛れに横を向くと、隣のベッドでは姉が横になったままスマホをいじっていて、画面の光に照らされた顔が何やら険しい。
何を見ているんだろうと思っていたらスマホの音量が一気に大きくなった。
お経だ。
姉はスマホからお経を大音量で流している。
それを聞いているうちに急に布団が軽くなって、Uさんは起き上がることができた。
姉はそれを見るとお経を止めてスマホを枕元に置き、布団を被って目を閉じた。
翌日、昨夜のことを尋ねてみると姉の話はこうだった。
Uさんの唸り声で姉は目を覚ました。何事かと目を向けるとベッドに寝ているUさんの枕元に何かいる。
女だ。髪の長い、知らない女が上半身を妹のベッドの上に乗り出している。下半身は暗くて見えないが、壁から上半身だけが突き出しているようにも見えた。
女が頭をがくりと前に振ると、長い髪が遅れてバサッと前に振れる。その端が寝ているUさんの顔に当たる。
頭を振り上げてから、女はまたがくりと頭を振る。髪がUさんに当たる。
髪が顔に当たるたびにUさんは低い唸り声を上げる。
これはまずい。妹が変なものに取り憑かれてる。
姉は咄嗟に枕元のスマホで動画サイトを開くと、お経を検索して大音量で流した。
その途端に妹がガバッと起き上がり、髪の長い女の姿も消えたので、安心した姉はまた寝たのだという。
そんなの知らないんだけど!? Uさんは愕然とした。
髪の長い女など自分は見ていないし、唸り声を上げた覚えもない。
Uさんは自分の体験よりも姉の話のほうがよほど怖かった。