Nさんが十五年飼っていた愛犬が衰弱してしまった。獣医師に相談すると高齢のせいだという。
力をつけてもらおうと肉を食べさせたりもしたがその甲斐なく、日を追うごとに坂を転がり落ちるがごとく弱っていく。ついに歩き回る程度の体力もなくなって、部屋の隅の犬用ベッドに丸くなって細い息をついているばかりとなった。
このまま死んでしまうのだろうかと落ち込みつつ、せめて身体を冷やさないようにとNさんは愛犬に毛布をかけてやろうとした。
すると愛犬の腹のあたりがモゾモゾ動いている。どうしたんだろうと思って見ていると、毛をかき分けるようにして愛犬の腹の下から這い出してきたものがあった。
小人だった。
見間違いかと思いながらしゃがんで顔を近づけてみたが、確かにそれは五センチほどの裸の人だ。そうとしか見えない。
這い出してきた小さい人はNさんの視線に気付くとハッとした表情を浮かべ、慌てた様子で愛犬の脚を飛び越え犬用ベッドの陰へと回り込んでしまった。
逃がすまいと咄嗟に手を伸ばしたNさんだったが何も掴めず、犬用ベッドの周りを探してもそれらしきものの姿はなかった。
愛犬は翌日息を引き取った。
Nさんはこのときのことを何度も思い返しているが、小人の表情をはっきり見たのに、なぜか顔かたちはよく思い出せないのだという。