Cさんが大学の先輩から久々に誘われて、喫茶店で会うことになった。
在学中はよく一緒に飲みや遊びに行ったものだったが、卒業以来もう何年も直接顔を合わせることがなかった人だ。
店で落ち合うと昔話に花が咲いた。しばらくぶりに会ってみると、学生時代より少し疲れたような印象があったが、話してみると以前のままの明るい人だった。
そのうちに電話がかかってきて先輩は少し席を離れた。
コーヒーをすすりながら先輩が戻るのを待っていると、ふと卓上のメニュー立てに目が留まった。銀色のメニュー立ては鏡のように周囲を映している。
そこに花が映っている。白い花が何本も活けてあるように見える。
卓上にも席の周囲にも、そんな花はない。どこの花が映っているのだろう。
顔をずらしながらメニュー立てと周囲を交互に観察したが、どこにもそれらしき花が見当たらない。
変だなと思っているとその花のむこうに人の顔が見えた。先輩の顔だ。
戻ってきたのかと思ったが本人の姿はない。メニュー立ての中だけに先輩の顔があって、無表情にこちらを凝視している。
それを見ているとなぜか急に気分が悪くなってきた。悪寒がする。
もう耐えられないと思ったCさんは伝票を掴むと先輩の分も合わせて会計を済ませ、吐き気をこらえながら店を出た。
最寄りの駅に向かって歩いているうちに、波が引くように悪寒と吐き気が消えていった。しかしもう一度あの店に戻って先輩と合流する気にもなれない。
すみませんが急用で先に帰ります、と携帯で先輩にメッセージだけ送信して、そのまま帰宅した。メッセージに返信はなかった。
後から人づてに聞いた話によれば、先輩は借金が重なってかなり苦しい状況だという。
あの時、先輩がCさんに金の無心をするつもりだったかどうかはわからないが、あれ以来ずっと先輩と会っていない。