手を洗わない

Rさんが大学二年生のとき、高校時代のバレー部の先輩が事故で亡くなった。
大阪の大学に通っていたRさんは郷里の茨城に駆けつけ、葬儀に参列した。
葬儀場に集まった人々の中にはかつてのバレー部の仲間たちの姿もあったものの、流石に旧交を温めるという場でもなく、肩を叩きあったりする程度の軽い挨拶に留まっていた。
告別式の直前にトイレに入ったRさんが小便器で用を足していると、背後の個室から誰かが出てきてRさんの肩を叩いた。
「オッス、久しぶり」
首だけ振り向くとバレー部の先輩が微笑んで片手を上げている。Rさんは先程会った仲間たちに対してしたのと同様に、首を軽く下げて控えめに挨拶した。
先輩はそのままスタスタと出ていった。
あの人、手を洗わないで出ていったな――とRさんは呆れたが、用を足し終えて手を洗っているところでハッとした。
なんで亡くなったあの先輩がトイレから出てきたんだ?
これはドッキリかなにかで、本当は亡くなってなかったのか?
ところが会場で棺の中に横たわっているのは、紛れもなくトイレで会ったばかりの先輩本人で、確かに遺体だった。
思い返してみても、Rさんの肩を叩いて声をかけてきた先輩は生きている人間そのものだったという。