長野の大学に入ったGさんの話。
大学の近くのアパートに下宿したが、すぐ近くの高台に公園があり、散歩でよく行った。
その公園から尾根伝いに遊歩道になっており、もう少し上にある展望台まで行けるようになっていて、そちらにも気が向けば足を伸ばした。
ある日の夕方、気まぐれに展望台まで行って帰る途中のこと。
ふと気がつくと前方にもうひとり歩いている後ろ姿があった。灰色のトレーナーを着た、年配らしき男性だ。
初めは特に意識もせずその背中を眺めながら歩いていたGさんだったが、そのうちにある疑いが頭をよぎった。これはおかしいんじゃないか?
というのも展望台にいたのは自分ひとりだけだったから、すれ違うならともかく、自分より先に展望台から下っていく人の姿があるのはおかしいのだ。
とはいえ、展望台まで行かずに途中で引き返している人なのかもしれない。あるいは脇の林から遊歩道に出てきた人なのかもしれない。
そんなことを考えながら、Gさんは一定の距離を保ったままその背中の後ろを歩いていった。
すると急に前の人が速度を早めてぐんぐん遠ざかっていく。
しかし体の動き方は変わっておらず、同じ歩調で歩いているように見える。目がおかしくなったのだろうかと思いつつよく目をこらしてみると、勘違いに気づいた。
遠ざかっているわけではなかった。相変わらず前の人はGさんから同じくらいの距離のあたりを歩いている。
ところがその後姿がどんどん小さくなってきている。だから遠ざかっていくように見えたのだ。
いや、そんな小さくなっていくのはおかしいでしょう、と見ている光景が信じられないGさんは、もっと近くで確認しようと足を速めた。
しかし前の人の縮小は留まるところがなく、更に小さくなっていって、Gさんが追いつくより前にすっかり縮んで見えなくなってしまった。周囲を見回しても誰の姿もない。
どういうわけか、Gさんはそのとき――。
ひどく惜しいことをしたような、残念な気持ちに襲われた。
もっと早くあの後ろ姿に気づいていれば、もっと早く追いついていれば。
自分でもどうしてそう思ってしまうのかわからない。
それでもそんな思いがまとわりついて、何日ものあいだ頭を離れなかったのだという。