Rさんが彼女とデートしてホテルで一泊し、どこかで朝食を食べてから帰ろうかと朝の街を二人並んで歩いていたときのこと。
ぽつぽつと言葉を交わしながら歩いているうちに川にかかる橋に差し掛かった。見下ろす川面に朝の光が反射してキラキラ輝いている。
昨夜はあまり眠っていないせいか、いつになく眩しく感じられた。しかし妙に目を逸らすことができない。
歩きながら光の反射を見ていると、わけもなくそこから飛び降りたくなった。そう思うといてもたってもいられない。
よし飛び降りようと思って欄干に手をかけたものの、そこで思い出した。まだ朝飯食べてないな。
彼女と朝飯に行くところだった。飛び降りるのは何か食べてからにしよう。
そう思いとどまって彼女の方を振り向いたところで、すぐ隣で彼女が欄干を乗り越えようとしていた。
慌ててその襟首と腕を掴んで押し留めるが、すごい力で抵抗しながら尚も飛び降りようとする。
朝飯! 朝飯まだだから!
そう言って宥めるとようやく彼女はおとなしくなったので、あらためて二人で近くの牛丼屋に入った。
カウンターに並んで座り、注文した定食が来たので箸を手にしたところで二人して我に返った。
さっきの、何だあれ?
どうして飛び降りるのが当たり前みたいに思い込んでたんだ?
朝飯食べてからにしようなんて思わなかったら、あのまま二人して飛び降りていたに違いない。しかしその理由がわからない。
とにかくあの瞬間は、それが当然のことだと思い込んで疑うこともできなかった。それを思い返すと背筋にいやな汗をかいた。
そのまま二人は味のわからない食事を済ませ、店を出てからもまだ一人になりたくなかったので、二人してRさんの部屋に行き、夕方まで青い顔をしてじっとしていたという。