祖母の靴

Yさんの祖母は仏間で寝起きしていて、朝食の時間になるとYさんが呼びに行く習慣になっていた。仏間の襖の前でYさんがおはよう、ご飯だよと声をかけると中から祖母がはーいと返事をする。
Yさんが中学生の頃のある朝、いつものように仏間に向かって声をかけたが返事がない。まだ寝ているのかと襖を開けるとやはり祖母は布団の中にいる。
近くで声をかけようとしたが、すぐに異変に気がついた。顔色が真っ白で呼吸をしていない。
慌てて両親を呼びに行った。すぐに父も母も仏間に来て確認したが、やはり祖母は亡くなっているという。
そこへ玄関の引き戸がカラカラと音を立てて開いた。仏間の前の廊下にいたYさんがそちらに目を向けると、ちょうど玄関から祖母が入ってくるところだった。
足を悪くしていた祖母は少し足を引きずりながら入ってきて、上がり框に腰掛けて靴を脱いでいる。
いつも通りの祖母の姿だ。
えっ、じゃあ布団で寝ているほうのお祖母ちゃんは何なの。
仏間に目を戻すとやはり祖母は布団で仰向けになって動かない。玄関をもう一度見ると誰もいなかった。
誰が来たの? 玄関が開く音を聞いていた母がそう尋ねたが、Yさんはどう答えていいか迷ってしまった。
母の問いに答えずに玄関まで行ってみると、いつもは脱いだ後に綺麗に揃えられている祖母の靴が、左右ばらばらに転がっていた。

 

後から考えても、あのとき玄関から入ってきた祖母は布団の中の本人よりよほど本物らしく見えたんですよとYさんは語った。