プレゼント

Wさんは大学を出て地元の信用金庫に就職した。
入ってから知ったのだが、慢性的に人手不足らしく、常に忙しい。外回りに事務の数々と、新人のうちから回される仕事が多かった。休日のはずの土日も、付き合いのある地元企業との会合が入ることが多く、休めない。
残業も常態化しており、帰りは夜10時を過ぎることが珍しくない。家に帰ると食事もそこそこに、倒れ込むように眠るのがいつものことになった。

 

そんな生活を続けていた就職二年目のある夜、Wさんは寝床でふと目を覚ました。周囲で人の話し声がする。
見回すとベッドの周りに数人の姿があって、何やら楽しそうに話している。みんな若い女の人だ。
少し驚いたが、誰なのかわかると安心した。仲のいい友達が集まっている。
彼女たちはWさんの視線に気付くと、揃って立ち上がった。なに、もう帰っちゃうのと尋ねると困ったように微笑んで言う。
「ちょっとプレゼントを渡しに行かないといけないから」
見るとそれぞれ手に膨らんだ袋を持っている。サンタさんみたいね、と言うとみんな朗らかに笑った。
ぞろぞろとみんなが部屋を出ていこうとするので、見送るために起き上がろうとしたが、なぜか体に力が入らない。
友達はそんなWさんを見て言う。
「顔色悪いね。無理しない方がいいよ。病院行ったほうがよくない?」
大丈夫だからちょっと待って、と言おうとしたが友達はそのまま出ていった。バタンとドアが閉まったときにようやくWさんは上体を起こすことができた。
疲れは溜まっているものの、起き上がってみれば体は普通に動く。
ちょっとくらい待ってくれてもよかったのに。そんなに急いでたのかな。
そんな言葉が口をついたが、そこでふと気がついた。今しがた部屋を出ていった友達の名前が出てこない。
名前どころか、顔もはっきりしない。
あれがみんな友達だと疑いなく思いこんでいたし、当たり前のように会話も交わしたが、冷静に考えてみると友達だという証拠がまるでない。
時計を見ると午前三時前。こんな時刻に予告なく友達が部屋に集まっているのもおかしい。
ベッドから降りて部屋を見回したが、寝る前と変わったところはない。無くなっているものも増えているものもない。窓にも玄関にも錠はかかっている。
彼女たちがいた形跡そのものが何一つなかった。ならばあれは夢だったのだろうか。
しかし目を覚ましてから体を起こす直前までは確かに目の前に誰かがいて、部屋を出ていったのを見た。
プレゼントを渡しに行くと言っていたが、誰に何を渡しに行ったのだろうか。


「病院行ったほうがよくない?」
あれが現実だったのかどうかはさておき、最後の言葉がどういうわけか印象に残ったWさんは無理をおして休みを取り、病院で健康診断を受けた。
多忙で疲れているほかは自覚症状などなかったが、診断結果によれば心臓に異常のある疑いがあるという。更に検査を受けたところ、初期の心不全とのことだった。
医師から仕事を減らすよう勧められたWさんは思い切って休職し、結局そのまま転職することになった。
あのまま激務を続けていたら、そのうち発作を起こして突然死していたかもしれない。彼女たちはそれを伝えに来たのではないか、それが自分へのプレゼントだったのではないか。Wさんにはそんなふうに思えるのだという。