お稲荷電車

都内の某駅でのこと。
電車に乗って発車待ちの間、閉じている側のドアにもたれて何気なく窓の外に視線を向けていた。
すると隣の線路に電車が入ってきて停まったので、隣の電車の車内を覗く形になった。
その車内におかしなものがある。
狐だ。稲荷神社の入り口の左右に置かれているような石の狐がひとつ、車内に立つ乗客の間にある。
誰か乗客が持ち込んだのだろうが、一体どういうわけでそんなものを電車で運んでいるのだろうか。
よく改札で止められずに持ち込めたものだ。
あまりの場違いさにしげしげと眺めていると、ふっと狐がこちらを向いて視線が合った。
動いた――石彫りの狐が?
あっと声を上げそうになったこちらを気にした素振りもなく、狐は興味なさそうにそっぽを向くと乗客の間をすり抜けて向かいのホームへと降りていった。
すぐにこちらの電車の発車時刻となり、狐の後を追うことはできなかったという。