夕方に浜で釣りをしていた人の話。
日が落ちかけて暗くなってきたのでそろそろ切り上げるか、と思ったところで視界の端に見慣れないものが映った。
砂浜の向こうに長く突堤が伸びている。その先端に、真っ黒なものが立っている。
先程釣りを始めたときにはあんなものは無かったはずだ。普段からあそこにあんなものは無い。
逆光でもないのに真っ黒にしか見えないのが奇妙だ。上から下まで同じ幅で、ドラム缶くらいの大きさだろうか。
好奇心からもう少し近寄って見てみようと、釣り道具を仕舞って突堤の方に歩きだした。
すると近づくにつれて、どんどん黒いものが大きく見える。近づいているから大きく見えているというわけではなく、実際にどんどん膨らんでいっているようだ。
それに気づいて足を止めたが、それでも黒いものはどんどん大きくなり、上に伸びていく。
見上げるほどにずんずん上に伸び、真上に覆いかぶさってくるほどまであっという間に大きくなった。
逃げ出そうにも足がすくんで動かない。
腰を抜かしそうになりながらも、こんなのはおかしい、現実じゃない、と自分に言い聞かせた。
巨大な黒いものはそのまま頭上を越え、空いっぱいに広がり、飛行機雲のように薄くなって消えた。
帰り道は星がいつにも増して綺麗に輝いていたという。