鳩の窓

うちの会社に鳩の出る窓っていうのがあってな。
Uさんは久々に会った大学時代の友人からそんな話を聞かされた。
友人は輸入食品を扱う会社に勤めているのだが、その事務所の窓のひとつに鳩が首を出すのだという。
事務所にやってきたお客さんが時折、その窓の方を見て驚く。あっ鳩、窓の隙間から今、鳩が顔出してましたよ。
でもそんなのありえないんだよ、と友人は首を振る。その窓、はめ殺しなんだ。
見るのは決まって外から入ってきた人だ。社員でもお客さんでも、とにかく事務所に入ってきたタイミングで鳩を目にする。
事務所にいる状態で何度その窓に目をやっても鳩など影も形もない。他にもおかしなものは何も見当たらない。
誰かが鳩を見た直後に窓を見ても、あるいは誰かが入ってきたタイミングで同時に窓を見てもやはり見えない。
友人は一度もその鳩を見ておらず、せっかくだから一度くらい見てみたいとどこか楽しそうに語った。
――だから事務所に入るたびにその窓のほうを見てるんだ。でもまだ出ないんだよなあ。


そんな話をしてから数年間、Uさんはその友人と会う機会がなかった。
次に会った時は街中で偶然すれ違ったのだが、やつれた様子なのがひと目でわかった。
最近どうしてると聞くと、友人は前の会社を辞めたという。
鳩の出る窓の話、覚えてるか。あれな、鳩じゃなかったんだ。
友人は浮かない顔でそう話す。
鳩じゃないならなんだったんだと問うと、友人は曖昧に目を逸らした。
見なけりゃよかった。
友人は吐き捨てるようにそれだけ言い残して立ち去り、それ以来連絡が取れないという。