そろそろ寝なさい

高校生のMさんが真夜中に自室で学校の課題を進めていた。

部屋全体が明るいと気が散るので、スタンドライトだけ点けて机に向かっていた。
午前二時頃、集中しているおかげか、それほど眠気も感じていなかった頃のことである。

 


「そろそろ寝なさい」

 


横からそんな声が聞こえてきた。
はっとしてそちらに視線を向けたが、暗い部屋の中にはMさんの他に誰もいない。
視線の先には壁があるだけだ。
気のせいか、と視線を戻しかけたが、少し違和感があってもう一度壁を見た。
部屋が暗いからか、いやに壁が古ぼけて見える。あそこの壁はあんなに汚れていたのか。
しかしよくよく見ると、壁の材質がいつもと違うように見える。
細かい布目のある白い壁紙が貼られているはずなのに、光の加減なのか何なのか、なめらかな塗り壁のようにしか見えない。
目が疲れているのかな。
近くでよく見てみようとして、椅子から立ち上がって一歩踏み出したとき、カーテン越しに窓から強い光が差し込んできた。
何の光だ、とカーテンを明けるとなんと日が昇っている。朝だ。
そんな馬鹿な、まだ二時くらいだったじゃないか、と壁の時計を見ると午前七時少し前だ。そしていつもの壁紙に戻っている。
一瞬で四時間以上進んでいたのはいつの間にか眠ってしまっていたためで、声や壁のことは夢だったのかもしれない――とMさんは考えた。
しかし不可解なことに、二時の時点ではまだ途中だった課題が、いつの間にかすっかり終わっていた。
書いた覚えのない字が、紛れもない自分の筆跡でノートにびっしり並んでいたという。