親子

前夜から雪が降り続く午後のこと。
当時高校生だったKさんが帰宅途中、傘を差したお母さんと小学生の女の子が並んで前方を歩いていた。
楽しそうに言葉を交わすその背中を眺めながら歩いていたKさんだったが、そのお母さんの肩越しにもう一つ顔が覗いた。
肩の向こうから幼い男の子がこちらを見てにっこり笑いかけてくる。無邪気な笑顔にKさんも思わず顔をほころばせた。
すぐに男の子の顔はお母さんの頭に隠れて見えなくなったが、そこでふと疑問が湧いた。
――あの男の子、お母さんに抱っこされてるのかと思ったけど、お母さんは両手がふさがってるな。どうやってるんだ?
お母さんは左手で傘を持ち、右手に手提げ袋をぶら下げている。小さい子供を抱っこできる様子ではない。
ならば抱っこ紐を使って胴体に男の子をくくりつけているのか。
しかしその数分後、赤信号でKさんがその親子の横に並んだ時に横目で見てみると、お母さんは誰も抱っこなどしていない。
あの男の子はどこに消えた?
そもそもあれは誰だったのか?
背筋が冷たくなったのは雪のせいだけではなかった。
Kさんはそれ以上その親子を見ないようにして足早に立ち去ったという。