夜の職員室

中学校で教師をしている人の話。
仕事が溜まっていて、他の先生はみんな先に帰ってしまった夜のこと。
校舎の戸締まりを確認してから職員室に戻ると、パソコンのキーボードを打つ音がする。
あれ、みんな帰ったと思ったのに。
そう思いながらパソコンに向かう人の姿をよく見ると、見覚えのある顔だ。
以前その中学校に勤めていて、二年ほど前に他の学校に異動したF先生だった。
来るという話も聞いていないし、もう時間も遅い。なぜ今、ここでパソコンを使っているのか。
……お久しぶりです、今日はどうされたんですか?
訝りながらも声をかけてみたが、F先生はパソコンの画面に視線を向けたまま、頷きも返事もしない。
ただ黙々とキーボードを打っている。
もう一度声をかけてもやはり反応はない。
その時あることにはっと気がついた。F先生が向かっているパソコンの画面は真っ暗で、何も映っていないのだ。
これはいよいよおかしい。誰か他の先生に連絡したほうがいいのではないか。
しかしその前に少し試してみたいことを思いついた。明かりを消したら何か反応するだろうか。
そこで職員室のドア付近にあるスイッチをまとめてオフにした。一斉に明かりが消え、窓の外の僅かな明かりが差し込むだけになった。
キーボードを打つ音は止んでいた。F先生がいた辺りは暗くてよく見えない。
すぐにもう一度明かりを点けると、F先生の姿はどこにもなかった。


もしかしてF先生の身に何かあったのではないか、と考えてすぐにF先生の自宅に電話をしてみたが、元気そうな本人が出た。

特に変わりはないということで、拍子抜けしてしまったという。