宅配便

夕方、玄関のブザーが鳴ったのでWさんが出ていくと宅配便だった。
信販売で注文した品物が届いたようで、喜んで受け取りのサインを書いていると、配達員の脇をすり抜けて誰かが玄関から中に入ってきた。
配達員はその誰かに頭を下げて挨拶をしたが、一方のWさんは目を疑った。
入ってきたのは二年ほど前に亡くなった祖父だった。
生前の元気だった頃と同じ姿で、見間違えようがない。背筋を伸ばして歩く姿は確かに祖父だ。
祖父はWさんなど見えていないかのように素通りして玄関から廊下に上がり、そのままスタスタと奥へと進んでいく。
廊下の突き当って左には祖父が寝起きしていた仏間がある。
祖父は当たり前のようにそこへ入っていった。
配達員を玄関に残したまま、Wさんは慌てて祖父の後を追った。仏間に踏み込んだものの、祖父の姿はどこにもない。ただ、火の気のない仏間の中になぜか焚き火のような匂いが漂っていたという。
呆然としながら玄関に戻ると、待っていた配達員が言った。


お祖母さん、お元気ですね。


えっ? Wさんは今度は耳を疑った。
配達員にはあれが祖父ではなく祖母に見えていたのだろうか。祖父は女性に見間違えられるような風貌ではないし、Wさんは祖母らしき姿を見ていない。
配達員とWさんとでは、見えていたものが違うのだろうか。
何が見えていたのか具体的に確かめるのも気味が悪いので、その場はいい加減に返事して配達員を見送った。
命日やお盆でもないのに突然祖父が現れた理由は、よくわからないままだという。