知らない顔

Nさんは高校生のとき、交通事故による怪我で一ヶ月近く学校を休んだ。
松葉杖に頼りつつもようやく学校に通えるようになった朝、久々の登校でうっかり自分のクラスを間違えたかと思ったという。
というのも教室の中にいる顔の多くに見覚えがないのである。
だが教室の名前は確かに自分のクラスで、よく見れば見覚えのない顔ばかりではなく、知っている同級生もちらほらいる。
自分がいない間にクラス替えでもあったのかと思ったが、学年をまたいだ訳でもないし、誰に聞いてもクラス替えなどしていないという。
しかし朝のホームルームになってクラスが全員揃ってみると、半分近くの顔に心当たりがない。自分のクラスどころか他のクラスでも見た覚えがない、知らない顔がクラスメートの半分近くを占めている。元々いたはずのクラスメートが半分いなくなっていて、その代りに知らない生徒が当たり前のように居座っているのである。
みんな揃って自分を担ごうとしているにしては意味がわからないし、知っている顔も知らない顔もみなあまりにも自然に過ごしていて、Nさんだけが違和感を抱いているようだった。
もしかして事故のせいで記憶がおかしくなっているのではないかとも考えたが、それにしては入れ替わる前のクラスメートの記憶が鮮明で、それがデタラメな記憶だとも思えない。
周囲には事故のせいで記憶が混乱しているという説明をしてその後の高校生活を過ごしたが、クラスメートが入れ替わっていたという感覚は卒業までずっと続いていたという。