疎外感

Kさんが新しいカメラを買った。
前から欲しかったデジタル一眼レフである。家族旅行に早速持っていった。
新しい機種ということもあって性能は素晴らしく、Kさんは大満足で写真を撮り続け、旅行中はカメラをほとんど手放さなかった。


帰宅してから写真のデータをパソコンに移し、ディスプレイで一枚ずつ写りを確認していたKさんは、ふとあることに気が付いてもう一度最初から見返した。そして酷く困惑してしまった。
久しぶりの旅行にはしゃぐ息子と楽しそうな妻の姿が、どの写真にも収められている。そしてそこに、数枚に一枚の割合でKさんの姿も写っている。写真の中のKさんは妻や息子の傍で楽しそうな笑顔を見せている。
だがそんなはずはないのだ。写真を撮ったのはKさん自身なのだから。
三人一緒に写っているから妻や息子がこっそり撮ったということはありえない。
そもそも、そのカメラをKさんは旅行中ずっと手に握っていた。他の誰かが気づかないうちに写真を撮ることは不可能だった。
ではこの写真は何なのだろう。もう一人Kさんがその場にいて、写真を撮っていたKさんを他所に家族と楽しく過ごしていたかのようだ。写真を撮った時にそんな男が視界にいた覚えも全くない。
Kさんはその写真を見ながら、なんとなく嫉妬のような気持ちが湧いてきたという。
――俺が写真を撮ってる間に何勝手に家族と楽しくやってるんだよ。俺の家族だぞ。
写真を凝視すればするほど、自分に瓜二つの男が自分を差し置いて家族と楽しく過ごしているようにしか見えなくなってきて、胸がムカムカしてたまらない。
結局Kさんらしき男が写っている写真は全て、家族に見せずに消去してしまった。
それ以降、Kさんはあまり写真を撮らなくなったという。