大学生のOさんが自宅のリビングでソファにもたれてのんびりしていると、急にお腹の辺りに温かいものを感じた。
ふと視線を下ろすと、何やらお腹の辺りから生ぬるい風が吹き上がってくるようだ。
と、その途端に壁際のテレビの電源がひとりでに点き、更には同じ部屋にあるステレオコンポの電源も点いてCDトレイが勝手に出てきた。
何だ何だ一体、と慌ててOさんが体を起こすと、ちょうどリビングの入口に立っていた人物と目が合った。
立っていたのはOさんのお父さんだった。
見たことのない黒いコートを着たお父さんが、放心したようにぼんやりこちらを見ている。
一人で留守番していたOさんはお父さんに「お帰りなさい」と声をかけようとした。
しかし口を開こうとしたその瞬間、立っていたお父さんがふっと吹き散らすように消えてしまった。
えっ、とリビングの入口に駆け寄ったOさんだったが、誰の姿もなく玄関にはお父さんの靴もない。
今のは何だったの、と呆然としたOさんだったが、次第にお父さんに事故か何かがあった知らせだったのではないか、と思えてきた。
それで携帯に電話をかけてみたところ、すぐにお父さんが出た。
様子を尋ねてみたが、特に変わったことはないという返事だった。リビングにお父さんらしき人が現れた時刻にも特に何もなかったという。
夜になってお父さんは元気に帰宅した。
結局あの時リビングに現れたお父さんが何だったのか、今でもわからないままだという。