目覚まし時計

新卒で就職したYさんは東京での研修を終えたあとで、盛岡支社での勤務をすることに決まった。
盛岡の社員寮に引っ越したが、その寮の部屋でおかしなことが起こる。
仕事を終えて部屋に帰ると、ドアを開けた瞬間に目覚まし時計のベルが鳴りだすのだ。
もちろんそんな時刻に鳴るようには設定していないし、帰る時刻が違っていても必ずドアを開けた時に鳴るのはどういうことか。
学生時代から使い続けていた時計なので故障したのかとも思ったが、セットした時間にはちゃんと鳴るし、時刻がずれることも少ない。
電池がなければ鳴らないだろう、と思って出かけるときに電池を取り出しておいたところ、なぜかやはり鳴る。
流石にこれは気味が悪かったものの、うるさい以外に実害はないことだし、慣れてしまえばどうということもないのでYさんはそれ以上気にしないことにした。
そうして過ごしていたある日のこと、帰り道に少し遠回りしていつも行かない店で買物をした。
そちらから帰るには途中にある神社の境内を通って行くのが一番の近道だった。
その神社に足を踏み入れるのはそれが初めてのことで、少しワクワクしながら大きい鳥居の下をくぐった、その時。
ミシッ、ベキベキッ……。
Yさんの背後で、木が割れたか折れたかしたような音が響いた。
何だ、と振り向いてもそこには参道と疎らな人影があるばかりで、音の源になったようなものは見当たらない。
何だったんだろう、と怪訝に思いながらも神社の境内を歩いて行ったが、こころなしか体が軽い。
そういえば先ほどの謎の音を聞いた瞬間に、何となく今日一日の疲れが取れたような気がする。
これは神社の神様のご利益かもしれない、と思ったYさんは本殿にお参りをしてお礼を言ってから寮に帰った。
どういう訳かはわからないが、その日から目覚まし時計が帰宅時に勝手に鳴り出すことはなくなった。


鳴らなくなるとそれはそれで何となく寂しかったという。